【大学間交換留学の教科書編集部】
交換留学を考える大学生のための、大学や留学エージェントから独立した情報サイトです。
全国の旧帝大で交換留学や海外大学院留学を経験したメンバーが、自分たちの経験と公式情報をもとに運営しています。
就職活動の進め方をまだつかめていない場合は、先に【必読】就活前のQAを超短縮したまとめを読んでほしい。就職活動の基本を押さえたうえで本稿を読むと、企業研究の要点を理解しやすい。
要旨
本稿は、商船三井の2026年3月期の有価証券報告書と、それを加工した公開データをもとに、同社の事業構造、海外展開の規模、海外勤務につながる人材育成の制度、働き方と処遇、経営陣と株主構成を整理し、就職活動で同社を検討する学生が確認すべき点を示すものである。
主な結果は3点に要約できる。第一に、同社はグループで930隻の船の運航に関わる海運中心の会社であり、利益の柱は自動車船・港湾・物流とエネルギー輸送である。連結従業員は11,567人で、日本郵船の約3割と小さい。第二に、売上高に占める海外の会社の割合は28.4%だが、そのうちシンガポールの会社だけで3,145億円を計上し、有形固定資産の約半分が海外にある。同社はシンガポールの「準本社」の機能を広げ、海外組織に権限を移す方針を掲げている。第三に、有報には海外派遣の制度や人数の記載がほとんどなく、人材の方針はグループの重要ポストを担う人材の育成と、グループ会社の人材の登用に重点がある。海外で働く機会の形は、有報よりも社員への確認で補う必要がある。
目次
1 本稿の目的と方法
1.1 目的
就職活動における企業研究では、会社説明会や採用サイトの情報が中心になりやすい。これらは会社の魅力を伝えるために作られた資料であり、他社と同じ基準で比べることが難しい。本稿は、すべての上場企業が同じ様式で作成する公的な開示書類を用いて、商船三井を他社と比較できる形で整理することを目的とする。
本シリーズでは特に、「その会社に入社したとき、海外で働く機会はどの程度あり、どのような形をとるのか」という問いを中心に置く。交換留学を経験した学生や、海外に関わる仕事を志望する学生にとって、この点は会社選びの重要な判断材料になるからである。
1.2 資料
本稿が主に用いる資料は、有価証券報告書(以下、有報)である。有報は、上場企業が事業年度ごとに金融庁へ提出することを法律で義務づけられた書類であり、事業の内容、業績、従業員の状況、役員の経歴、大株主、人材の育成方針などが決まった様式で記載される。金融庁の電子開示システムであるEDINETで、誰でも無料で閲覧できる。
有報には監査法人の監査を受けた財務諸表が含まれ、虚偽の記載には罰則がある。そのため、記載された数値の信頼性は高い。一方で、有報は投資家に向けた書類であり、個々の社員の配属先や駐在の時期といった情報は含まれない。本稿で示すのは、海外で働く機会の「規模と仕組み」であり、個人のキャリアを予測するものではない。
このほか、10年分の業績、事業セグメント別の数値、大量保有報告書の情報は、有報などをもとにIRBANKが整理したデータを用いた。同業他社との比較には、時価総額3,000億円以上の上場企業約500社の有報から当サイトが集計したデータ(2026年版)を用いた。なお、商船三井の地域別の売上高、海外の関係会社の所在国、役員の人数、海外勤務・研修に関する記述の件数は、当サイトの集計に誤りがあったため、有報の原文で確認した値に直している。
1.3 用語の定義
本稿で繰り返し用いる用語を、先に定義しておく。
連結と単体 「単体」は商船三井という会社そのもの、「連結」は商船三井が支配する子会社を含めたグループ全体を指す。就職活動で「商船三井に入社する」という場合、雇用契約を結ぶのは単体の商船三井である。
売上高・経常利益・純利益 売上高は、運賃や船の貸出料など、本業で得た金額の合計である。経常利益は、本業の利益に、出資先の会社の利益の取り分(後述の持分法による利益)や利息などを加えた利益である。商船三井は、事業ごとの利益(セグメント利益)を経常利益をもとに示している。純利益は、さらに税金などを差し引いて最終的に残った利益である。
持分法適用関連会社 子会社ではないが、出資を通じて経営に大きな影響を与えている会社である。その会社の利益のうち出資の割合に応じた分が、親会社の経常利益に加わる。
関係会社 子会社と、持分法適用関連会社などの関連会社をまとめた呼び方である。有報の「関係会社の状況」には、このうち主要な会社が所在地とともに記載される。
傭船(ようせん) ほかの船主から船を借りて運航することである。海運会社は、自社で持つ船と借りた船を組み合わせて輸送の量を調整している。
海上職と陸上職 海上職は、航海士や機関士として船に乗って働く社員である。陸上職は、本社や支店で営業や企画、管理を担う社員である。商船三井の有報は、この2つを「海上従業員」「陸上従業員」として分けて記載している。
パーセンタイル 集団の中での位置を0から100で表した数値である。たとえば「80パーセンタイル」は、比較した約500社の中で下から80%の位置、つまり上位20%に入ることを意味する。
2 会社の概要
2.1 外航海運という事業
商船三井は、外航海運を中心とする会社である。外航海運とは、国と国の間で貨物を船で運ぶ事業であり、大きく2つの型に分かれる。1つは、決まった航路を時刻表どおりに回り、多くの荷主のコンテナを運ぶ「定期船」である。もう1つは、鉄鉱石や石炭、原油、液化天然ガス(LNG)、自動車など特定の貨物を、荷主との契約に合わせて運ぶ「不定期船」である。不定期船には、何年もの長期契約で運ぶものと、その時々の運賃の相場で運ぶものがある。
同社グループが運航に関わる船は、持分法適用関連会社の分を含めて930隻(保有船453隻、傭船470隻、運航の受託7隻)にのぼる。グループは連結子会社470社、持分法適用関連会社141社の計611社で構成される。
コンテナ船事業の中心は、シンガポールのOCEAN NETWORK EXPRESS PTE. LTD.(ONE)である。ONEは、商船三井・日本郵船・川崎汽船の3社がコンテナ船事業を統合して作った会社であり、商船三井にとっては持分法適用関連会社である。また、同社は海運のほかに、ダイビルを中心とする不動産事業、フェリーやクルーズの事業も持っている。
2.2 8つの事業区分
商船三井の報告セグメントは、ドライバルク、エネルギー、コンテナ船、自動車輸送・港湾・ロジスティクス、不動産、フェリー・内航RORO船・クルーズ、関連事業の7つで、これに「その他」が加わる。図1は、2026年3月期のセグメント別の売上高と利益を示したものである。

売上高と利益が最も大きいのは自動車輸送・港湾・ロジスティクス事業で、売上高は5,879億円、セグメント利益は693億円であった。自動車専用船による完成車の輸送に、コンテナターミナルの運営や航空・海上の貨物の手配、倉庫などの物流を組み合わせた事業である。次いでエネルギー事業(タンカー、LNG船、海洋事業など)が売上高5,258億円、利益556億円であり、セグメント資産は2兆2,771億円と最も大きい。長期契約の船を多く持つ、資産の大きい事業である。
コンテナ船事業は、売上高536億円に対して利益が267億円である。その多くはONEの利益の取り分(持分法による利益156億円)である。ドライバルク事業は売上高4,557億円に対して利益109億円、フェリー・内航RORO船・クルーズ事業は96億円の損失であった。
人員の配置を見ると、連結従業員11,567人のうち、自動車輸送や港湾、物流などを含む製品輸送事業が5,341人、不動産を含むウェルビーイングライフ事業が2,648人、エネルギー事業が1,230人、ドライバルク事業が328人である。船の事業は少ない人数で大きな資産を動かし、港湾・物流や不動産の事業は多くの人数で現場を回す構造である。
2.3 業績の推移
2026年3月期の売上高は1兆8,251億円、経常利益は1,758億円、純利益は2,133億円であった。図2は、過去10年の純利益の推移である。

10年前の2017年3月期の純利益は53億円、2018年3月期は474億円の赤字であったが、2022年3月期に7,088億円、2023年3月期に7,961億円と大きく増えた。この時期は、新型コロナウイルスの流行に伴う物流の混乱でコンテナの運賃が大きく上がった時期にあたる。2023年3月期の営業利益は1,087億円であったのに対し経常利益は8,116億円であり、その差の多くはONEなどの持分法による利益と考えられる。コンテナ船事業のセグメント利益も、2025年3月期の2,176億円から2026年3月期の267億円へ大きく減った。
このように、海運会社の利益は運賃の相場によって大きく変動する。同社は2023年に策定した経営計画「BLUE ACTION 2035」で、相場の影響を受けやすい事業と長期契約などで安定した収益を得る事業を組み合わせる方針を示している。2026年度からの第2段階(Phase 2)では、経営の重心を「変革と拡大」から「成果実現」へ移すとしている。
3 海外展開の規模
3.1 地域別の売上高と資産
商船三井の2026年3月期の売上高を、売上を計上した会社の所在地で分けると、日本が71.6%、アジアが21.6%、欧州が5.2%、北米が1.5%、その他が0.2%であった(図3)。日本以外を合計した海外の比率は28.4%であり、前年度の24.5%から上昇した。

同社は有報で、海運業では運送のサービスを提供する地域と顧客の所在地が必ずしも一致しないため、売上高を計上した会社の所在地で分けていると説明している。つまりこの数字は「海外で稼いだ割合」ではなく、「海外の会社が契約した割合」である。同じ計算で、日本郵船は32.5%、川崎汽船は9.2%であった。
注目すべきはシンガポールである。アジアの売上高3,936億円のうち、シンガポールの会社だけで3,145億円(全体の17.2%)を計上している。有形固定資産で見ると、2兆7,865億円のうち海外が48.5%を占め、シンガポールだけで6,396億円(23.0%)にのぼる。船を保有・運航する会社の多くがシンガポールに置かれていると考えられる。
3.2 海外拠点の分布
有報の「関係会社の状況」に名前が載る海外の子会社・関連会社は、37の国・地域に273社あった(連結子会社142社、持分法適用関連会社131社)。マーシャル諸島が34社で最も多く、シンガポールが32社、パナマが28社、オランダが24社、香港が23社と続く(図4)。

図4で灰色にしたマーシャル諸島、パナマ、リベリア、バハマなどは、船の登録先として多く使われる国・地域である。これらに置かれた会社の多くは、船を保有するための会社と考えられる。上位10か国・地域のうち4つがこれにあたり、海外の会社の数がそのまま海外の職場の数を表すわけではない。
これらを除くと、シンガポール、オランダ、香港、米国、ベトナム、タイ、インドなどに会社が多い。オランダにはタンクターミナルの事業、米国には米州を担当する持株会社やタンクターミナル、英国には欧州・アフリカで同社の海運代理店を担う会社がある。
3.3 海外比率の解釈
商船三井の海外比率28.4%は、住友商事(61.3%)や三菱商事(52.7%)などの総合商社と比べると低く見える。しかし、3.1節で述べたとおり、海運会社の売上は計上した会社の所在地で分けられるため、この数字は事業の国際性を過小に表す。船は国と国の間の輸送そのものであり、顧客、貨物、寄港地の多くが海外にある。
同社の経営計画は、海外の比重をさらに高める方向を示している。BLUE ACTION 2035のPhase 2では、地域戦略として「グループ会社を含む海外組織の人財が主体となり、本社と連携して推進していく」ことを掲げ、東アフリカから南アジア、東南アジアにかけての「環インド洋」を重点地域とした。また、ガバナンスの項では、海外組織への権限の委譲と、シンガポールの準本社の機能の拡充を進めるとしている。シンガポールの会社が売上高と資産の大きな部分を占めることは、この方針と一致している。
4 人材育成と海外勤務の制度
有報には「人的資本」と呼ばれる、人材への投資や育成方針を記載する欄がある。商船三井はこの欄で人材の方針と指標を示しているが、海外に駐在する社員の数、若手の海外派遣の制度、海外研修といった、海外勤務に直接関わる記載はほとんどない。本節では、記載された方針と指標を整理する。

4.1 Human Capitalビジョン
同社は、人材の方針を「Human Capital(HC)ビジョン」と呼び、「All on Board, Success through Growth」をスローガンに掲げている。基本原則は「多様性」「共走・共創」「働き甲斐」の3つであり、多様な人材が強みや専門性を生かし、組織の垣根を越えて協働する環境を作るとしている。具体的な行動として、継続的なタレント開発、人材データの活用、海技者の活躍機会の拡大、組織の垣根を越えた人材交流、グループ全体での人事機能の強化、エンゲージメントの向上の6つを挙げている。
4.2 グループの重要ポストと人材の育成
人材の指標の中心は、「MGKP(MOL Group Key Positions)」と呼ばれる、グループの成長を担う重要なポストである。同社は、MGKPについて中長期の後継者の計画を作り、グループの会社を横断して候補者を確保・育成するとしている。
2025年度のMGKPに占める女性の比率は8.5%、グループ人財の比率は30.1%であり、2030年度にそれぞれ15%と35%、2035年度に20%と40%とする目標を掲げている。ここでいう「グループ人財」は、本体の商船三井ではなく、グループ会社で採用された人材を指すと考えられる。3.3節の地域戦略とあわせて読むと、海外のグループ会社の人材を重要なポストに登用していく方針と解釈できる。
4.3 人事制度の変更
同社は2025年度に人事制度を改め、従来の年功的な等級・号俸の制度を見直した。基本給は、担う仕事とポストの重さに基づく「ジョブ・グレード」と、能力と行動に基づく「コンピテンシー・グレード」を合わせて決める。賞与は、経営計画で掲げるROE(自己資本利益率)の目標を目安にした計算式で決める仕組みである。また、社員が自ら手を挙げる公募による異動を、2030年度に年間50件とする目標を掲げている。
この制度は、年次よりも担うポストによって処遇が決まる方向への転換である。海外の重要ポストに就く機会が、年次ではなく職務と能力によって決まりやすくなると考えられる。
4.4 海上職の育成
同社の本体の社員1,433人のうち、387人が海上従業員である。同社は「海技者の活躍機会の拡大」を人材の行動の1つに挙げ、海上職の女性比率を2030年度に8%とする目標を掲げている。海上職は、入社後に船に乗って世界の海を回る仕事であり、本稿の問いである「海外で働く機会」の観点では、最も直接的な形の一つといえる。
5 働き方と処遇
5.1 給与・年齢・勤続年数
2026年3月期の商船三井本体の平均年間給与は1,660万円(前年度比15.5%増)、平均年齢は38.4歳、平均勤続年数は12.9年であった。内訳は、陸上従業員が1,654万円・39.5歳・13.5年、海上従業員が1,678万円・34.6歳・10.7年である。図5は、運輸系の各社(海運・空運・陸運・倉庫)と平均年齢・平均年間給与を比較したものである。

当サイトの集計で比較した運輸系32社のうち、商船三井の平均年間給与は最も高く、2位が日本郵船(1,555万円)、3位が川崎汽船(1,450万円)であった。運輸系32社の中央値818万円の約2.0倍にあたり、約500社全体で見ても14位である。ただし、平均年間給与は全社員の平均であり、職種や年次による差は反映されていない。また、賞与が業績に連動するため、海運の相場によって年ごとに大きく変わりうる。
5.2 労働時間と多様性
商船三井の有報には、残業時間、有給休暇の取得率、離職率の数値は記載されていない。男性の育児休業取得率は69.8%であり、同社は2027年度末に100%とする目標を掲げている。
女性管理職比率は10.4%で、陸上従業員に限ると15.9%である。同社は陸上職の女性管理職比率を2030年度に20%、2035年度に30%とする目標を掲げている。男女の賃金の差異は、男性の賃金を100としたときの女性の賃金が68.7である。正規雇用の陸上従業員に限ると、管理職同士で87.5、非管理職同士で88.0であり、差の主な要因は管理職に占める女性の少なさにあると同社は説明している。
5.3 組織の構造:本社1人あたりのグループ社員数
商船三井の連結従業員数は11,567人、本体の就業人員は1,433人である。連結を単体で割った値は8.1となり、本社の社員1人に対してグループ全体で約8人の社員がいる計算になる。本稿ではこの値を「本社レバレッジ」と呼ぶ。
同じ計算をすると、日本郵船は29.1、川崎汽船は5.5である。日本郵船との差は、日本郵船が3万人を超える物流事業を持つことによる。本体の社員1,433人のうち、エネルギー事業が585人と最も多く、全社共通の部門が531人、製品輸送事業が184人、ドライバルク事業が108人である。本体の社員の多くは船の事業と本社機能を担い、港湾や物流、不動産の現場はグループ会社の社員が担う構造である。
6 経営陣と株主
6.1 経営陣の経歴
商船三井は監査役会設置会社である。2026年6月23日の有報提出日時点で、取締役は10人、監査役は4人であり、役員14人のうち女性は5人(35.7%)である。社内出身の取締役5人と常勤監査役2人の略歴は、LNG船部長、定航部長、人事部長、財務部長、経営企画部長、広報室長など、本社の部長職を中心に書かれており、海外勤務の経歴は記載されていない。
一方、2026年6月25日の株主総会の後に代表取締役に就く予定の社長執行役員(2026年4月に就任)は、2018年にONEの欧州法人のManaging Directorとして欧州・アフリカ地域を統括し、その後、経営企画部長、常務執行役員、専務執行役員を経て社長に就いている。海外の拠点を率いた経験が、経営の中枢につながった例といえる。
社外取締役5人は、経済産業省と中小企業庁の元幹部、国土交通省出身で三井物産の執行役員を務めた人物、日本製鉄の会長、住友商事の会長、日産自動車グループの元幹部で駐ウルグアイ大使を務めた人物であり、日本の大手企業と官庁の経験者が並ぶ。
6.2 株主構成
商船三井の株式のうち、外国法人等が保有する割合(外国人持株比率)は25.0%であった。図6は、上位10位までの大株主を種類別に合計したものである。

上位には、投資信託や年金の資産を管理する国内の信託銀行の口座が並び、合計で22.9%を占める。次いで海外の機関投資家の口座が合計7.3%、三井住友銀行、三井住友海上火災保険、野村證券が合わせて3.6%である。大量保有報告書は、株式の5%超を保有した投資家が提出する書類であり、有報にはブラックロック・グループ(7.14%)、野村證券グループ(6.00%)、三井住友信託銀行グループ(6.12%)などの報告の内容が注記されている。
株主の約4分の1は海外の投資家である。同社が社員の賞与の計算にROEの目標を取り入れていることは、投じた資本に対してどれだけの利益を上げたかを、社員の処遇にまで結びつける経営の姿勢を示していると考えられる。
7 総合評価
7.1 5つの指標による位置づけ
本シリーズでは、海外で働く機会に関わる5つの指標を用いて、約500社の中での各社の位置を示している(指標の定義は付録を参照)。図7は、商船三井の各指標のパーセンタイルである。

商船三井は、海外子会社がある国の数が100と最上位であり、現地化に関する記述が65、本社レバレッジが62、海外売上比率が39、海外勤務・研修に関する記述が17であった。5つの指標を重みづけして合計した総合指数は53.6で、上位30〜60%にあたるTier Bに分類された。なお、1.2節で述べたとおり、地域別の売上高、関係会社の所在国、役員の人数、記述の件数は原文で確認した値に直して比べ直している(他社の順位は再計算していない)。当サイトの以前の集計では、海外の会社名に含まれる「MBA」などの文字を海外研修の記述として数えていたため、海外勤務・研修の指標が実際より高く出ていた。
海外子会社がある国の数が最上位になるのは、船を保有するための会社がマーシャル諸島やパナマなどにも置かれているためである。この指標は、社員が働く国の数を直接表すものではない。
7.2 4類型による位置づけ
本シリーズでは、海外売上比率の大小と、有報に記載された海外勤務・現地化の記述の傾向から、会社を4つの類型に分けている(図8)。

商船三井は、海外売上比率が50%未満であり、有報に海外勤務や研修の記述がほとんどないことから、このシリーズの分け方では「国内中心型」に分類される。ただし、この分類は有報の記述の量に基づく目安であり、同社の事業の実態とは大きく異なる。3節で見たとおり、同社の資産の約半分は海外にあり、シンガポールの準本社や海外組織への権限の委譲を進めている。この会社については、類型よりも、海外勤務の実態を社員に直接確かめることが重要である。
8 就職活動への示唆
8.1 面接・OB訪問で確かめるべき点
以上の分析から、有報だけでは分からず、社員に直接確かめる価値がある点が3つ導かれる。
- 陸上職の総合職が初めて海外に赴任するのは、入社何年目ごろが多いか。シンガポールの準本社や各地域の会社では、日本から赴任した社員がどのような役割を担っているか(3.3節)
- 海外組織への権限の委譲が進むと、日本から赴任する社員の役割はどう変わるか。現地の社員と日本の社員の分担はどうなっているか(3.3節、4.2節)
- 新しい人事制度のもとで、海外の重要ポストに若手が就く機会は増えているか(4.3節)
質問の際には、根拠となる情報を添えるとよい。たとえば「有価証券報告書で、シンガポールの会社が売上高の17%を計上し、準本社の機能を広げる方針を拝見しました」と前置きすれば、企業研究をしたうえでの質問であることが伝わる。また、回答が「部署による」であった場合は、相手自身の経験を尋ねることで、具体的な情報を得やすくなる。
OB・OG訪問の相手を見つける方法は、交換留学前にOB・OG訪問をする理由|ビズリーチ・キャンパスの使い方と注意点で詳しく解説している。
8.2 交換留学の経験との接点
商船三井は、HCビジョンの原則に「多様性」と「共走・共創」を掲げ、組織の垣根を越えた協働を求めている。また、地域戦略では、海外組織の人材が主体となり本社と連携して事業を進めるとしている。日本の社員には、海外の拠点の社員と協力し、本社とつなぐ力が求められると考えられる。
交換留学の経験は、この点と重なる。ただし、留学したという事実そのものは差がつきにくい。評価されやすいのは、価値観の異なる人々と協力して物事を前に進めた経験であると考えられる。たとえば、留学先の学生団体で、出身国の違うメンバーとイベントを企画し、予算や役割の分け方をめぐる意見の違いを調整して実施までこぎつけた経験は、組織の垣根を越えて協働する同社の考え方に通じる。また、同社が重点地域とする東南アジアや南アジア、準本社のあるシンガポールに留学した学生は、現地で見た港や物流、エネルギーの様子を同社の事業と結びつけて話すこともできる。
9 本稿の限界
本稿の分析には、次の5つの限界がある。
- 平均値の限界:有報の平均年間給与や平均年齢は全社員の平均であり、職種や年次別の分布は分からない。
- 地域別の数値の限界:地域別の売上高は売上を計上した会社の所在地による区分であり、海運の運賃の多くは日本の売上として計上される。社員が働く場所の分布を直接表すものでもない。
- 海外勤務の数値の限界:商船三井の有報には、海外に駐在している社員の数、若手の海外派遣の制度、在外子会社の従業員数が記載されていない。海外の職場の規模は、本稿では推定できなかった。
- 比較の限界:海運業は当サイトの集計で3社しかなく、給与の比較には空運・陸運・倉庫を含む運輸系32社を用いた。
- 時点の限界:本稿の数値は2026年3月期の有報に基づく。2026年4月に社長が交代し、同年度から経営計画の第2段階が始まっており、方針は今後変わりうる。
まとめ
まとめると、商船三井は次のような特徴を持つ会社である。
- グループで930隻の船の運航に関わる海運中心の会社であり、利益の柱は自動車輸送・港湾・ロジスティクスとエネルギー輸送である
- 売上高に占める海外の割合は28.4%だが、シンガポールの会社が売上高の17.2%を計上し、有形固定資産の約半分が海外にある。シンガポールの準本社と海外組織への権限の委譲を進めている
- 有報には海外派遣の制度や人数の記載がほとんどなく、人材の方針はグループの重要ポストの育成とグループ会社の人材の登用に重点がある
最初の一歩として、EDINETで商船三井の有価証券報告書を開き、「経営方針、経営環境及び対処すべき課題等」の地域戦略と、「セグメント情報」の地域ごとの情報を読んでほしい。同社がどの地域を重視し、どこで事業を動かしているかが分かる。
付録 指標の定義:海外売上比率は、地域別の売上高のうち日本以外の割合。海外子会社がある国の数は、「関係会社の状況」に記載された主要な海外子会社・関連会社の所在国の数。本社レバレッジは、連結従業員数を単体従業員数で割った値。海外勤務・研修に関する記述は、有報本文における海外勤務・派遣・研修に関する記述の件数に、社内出身の役員のうち海外勤務経験のある人数を加えたもの。現地化に関する記述は、外国人管理職や現地人材の登用に関する記述の件数。いずれも時価総額3,000億円以上の上場企業約500社の中でのパーセンタイルで示した。総合指数は5指標を30%・25%・10%・25%・10%の重みで合計し、上位10%をTier S、30%までをTier A、60%までをTier B、それ以外をTier Cとした。4類型は、海外売上比率50%を境に、海外勤務に関する記述と現地化に関する記述のどちらが多いかで分けた。
データの出典:商船三井 有価証券報告書(2025年4月1日〜2026年3月31日)。日本郵船と川崎汽船の地域別の売上高は、各社の2026年3月期の有価証券報告書による。10年分の業績、セグメント別の数値、大量保有報告書の情報は IRBANK による(出典:金融庁EDINET、加工:IRBANK)。同業他社との比較と5つの指標は、各社の有価証券報告書をもとに当サイトが集計した。
最終確認日:2026年10月26日
「お気に入り」追加済みの記事


