丸紅の企業研究|事業構造・海外展開・人材育成・働き方を有価証券報告書から読み解く【就活企業研究2026】

丸紅の企業研究

【大学間交換留学の教科書編集部】

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就職活動の進め方をまだつかめていない場合は、先に【必読】就活前のQAを超短縮したまとめを読んでほしい。就職活動の基本を押さえたうえで本稿を読むと、企業研究の要点を理解しやすい。

要旨

本稿は、丸紅の2026年3月期の有価証券報告書と、それを加工した公開データをもとに、同社の事業構造、海外展開の規模、海外勤務につながる人材育成の制度、働き方と処遇、経営陣と株主構成を整理し、就職活動で同社を検討する学生が確認すべき点を示すものである。

主な結果は3点に要約できる。第一に、2026年4月時点で本体の社員730名が海外に駐在しており、これは本体の従業員4,225人の約17%にあたる。第二に、同社は若手社員を事業会社などの「事業現場」に配置することを人材戦略の柱としており、事業会社などに出向している入社10年以内の社員は1年で24%増えた。第三に、収益の約3割を米国で上げ、工場や建物などの固定的な資産(非流動資産)も米国が最も多い。海外の中でも米国の比重が際立って大きい会社である。

目次

  1. 本稿の目的と方法
  2. 会社の概要
  3. 海外展開の規模
  4. 人材育成と海外勤務の制度
  5. 働き方と処遇
  6. 経営陣と株主
  7. 総合評価
  8. 就職活動への示唆
  9. 本稿の限界

1 本稿の目的と方法

1.1 目的

就職活動における企業研究では、会社説明会や採用サイトの情報が中心になりやすい。これらは会社の魅力を伝えるために作られた資料であり、他社と同じ基準で比べることが難しい。本稿は、すべての上場企業が同じ様式で作成する公的な開示書類を用いて、丸紅を他社と比較できる形で整理することを目的とする。

本シリーズでは特に、「その会社に入社したとき、海外で働く機会はどの程度あり、どのような形をとるのか」という問いを中心に置く。交換留学を経験した学生や、海外に関わる仕事を志望する学生にとって、この点は会社選びの重要な判断材料になるからである。

1.2 資料

本稿が主に用いる資料は、有価証券報告書(以下、有報)である。有報は、上場企業が事業年度ごとに金融庁へ提出することを法律で義務づけられた書類であり、事業の内容、業績、従業員の状況、役員の経歴、大株主、人材の育成方針などが決まった様式で記載される。金融庁の電子開示システムであるEDINETで、誰でも無料で閲覧できる。

有報には監査法人の監査を受けた財務諸表が含まれ、虚偽の記載には罰則がある。そのため、記載された数値の信頼性は高い。一方で、有報は投資家に向けた書類であり、個々の社員の配属先や駐在の時期といった情報は含まれない。本稿で示すのは、海外で働く機会の「規模と仕組み」であり、個人のキャリアを予測するものではない。

このほか、10年分の業績と大量保有報告書の情報は、有報などをもとにIRBANKが整理したデータを用いた。同業他社との比較には、時価総額3,000億円以上の上場企業約500社の有報から当サイトが集計したデータ(2026年版)を用いた。

1.3 用語の定義

本稿で繰り返し用いる用語を、先に定義しておく。

連結と単体 「単体」は丸紅という会社そのもの、「連結」は丸紅が支配する子会社を含めたグループ全体を指す。就職活動で「丸紅に入社する」という場合、雇用契約を結ぶのは単体の丸紅である。

収益と当期利益 収益は、商品やサービスを売って得た金額の合計である。当期利益(本稿では親会社の所有者に帰属する当期利益を指し、以下「純利益」とする)は、そこから費用や税金を差し引いて最終的に残った利益である。総合商社は取引の規模が大きいため収益が巨額になりやすく、会社の稼ぐ力を見るには純利益の方が適している。

持分法による投資損益 出資比率が20%から50%程度の会社(関連会社)について、その会社の利益のうち出資比率に応じた分を自社の利益として取り込んだものである。総合商社の利益には、この持分法による利益が大きく含まれる。

非流動資産 1年を超えて使い続ける資産のことで、工場、鉱山の権益、建物、航空機などがこれにあたる。有報では、このうち金融資産などを除いたものが地域別に開示される。

出向 会社に在籍したまま、子会社や取引先など別の会社で働くことである。総合商社では、出資先の事業会社に出向して経営や実務を担うことが多い。

パーセンタイル 集団の中での位置を0から100で表した数値である。たとえば「80パーセンタイル」は、比較した500社の中で下から80%の位置、つまり上位20%に入ることを意味する。

2 会社の概要

2.1 総合商社という事業

丸紅は、総合商社と呼ばれる業態の会社である。総合商社の事業は大きく2つに分けられる。1つは、メーカーと買い手の間に入って商品を売買するトレーディングである。もう1つは、事業会社に出資し、その経営に関わることで利益を得る事業投資である。

かつての総合商社はトレーディングが中心であったが、現在は事業投資の比重が大きい。丸紅が直接連結経理処理を行っている会社は、連結子会社324社と関連会社等153社の合計477社にのぼる(2026年3月期)。そのため社員の仕事には、取引の交渉だけでなく、出資先の会社に出向して経営を担うことも含まれる。

2.2 10の事業セグメント

丸紅は、2025年4月にそれまで16あった営業本部を10の営業部門に再編した。ライフスタイル、食料・アグリ、金属、エネルギー・化学品、電力・インフラサービス、金融・リース・不動産、エアロスペース・モビリティ、情報ソリューション、次世代事業開発、次世代コーポレートディベロップメントである。同社は営業利益をセグメント別に開示していないため、図1ではセグメント別の収益と純利益を示した。

丸紅のセグメント別の収益と純利益
図1 セグメント別の収益と純利益(2026年3月期、単位:十億円)

収益が最も大きいのは食料・アグリの3兆7,205億円で、全体の約45%を占める。一方、純利益が最も大きいのは金融・リース・不動産の1,620億円であり、金属の1,343億円、食料・アグリの815億円が続く。金融・リース・不動産は収益が246億円にすぎないが、出資先の利益を取り込む持分法による投資損益が904億円にのぼる。航空機リースや自動車販売金融などの出資先から利益を得る構造であり、収益の大きさと利益の大きさが大きく異なる典型である。

人員の規模もセグメントによって大きく異なる。連結の従業員数は、ライフスタイルが16,231人、食料・アグリが15,636人であるのに対し、金属は528人、金融・リース・不動産は404人にすぎない。少人数で大きな利益を上げる部門と、多くの人員を抱える事業会社を持つ部門が並んでおり、配属先によって仕事の進め方が大きく異なると考えられる。

2.3 業績の推移

2026年3月期の収益は8兆2,658億円、純利益は5,439億円であった。図2は、過去10年の純利益の推移である。

丸紅の純利益の推移(10年)
図2 純利益の推移(2017年3月期〜2026年3月期、単位:十億円)

10年前の2017年3月期の純利益は1,554億円であり、2026年3月期はその約3.5倍にあたる。2026年3月期は、この10年で最も大きい純利益であった。一方、2020年3月期には1,975億円の損失を計上しており、10年の間に赤字の年を経験している。翌期に2,253億円の黒字へ戻り、2022年3月期以降は4,000億円台から5,000億円台を維持している。

海外駐在には、住居費や各種手当など、国内勤務より大きな費用がかかる。利益の水準が高まっていることは、海外への派遣を続ける財務的な基盤が強まっていることを意味する。

3 海外展開の規模

3.1 地域別の収益と資産

丸紅の2026年3月期の収益を地域別に見ると、日本が51%、米国が31%、その他が18%であった(図3)。日本以外を合計した海外の比率は49.2%であり、前年度の50.1%からわずかに低下した。

丸紅の地域別の収益の構成
図3 地域別の収益の構成(2026年3月期)

他の5大商社と比べると、伊藤忠商事の23.4%を上回り、三井物産の49.4%とほぼ同じ水準で、三菱商事の52.7%、住友商事の61.3%を下回る。注目すべきは、海外の収益の6割以上が米国1か国で上げられていることである。丸紅は地域別の収益を日本・米国・その他の3つにしか分けて開示しておらず、米国以外の国の内訳は分からないが、米国の比重の大きさは5大商社の中でも際立っている。

非流動資産の分布でも同じ傾向が見られる。2026年3月期の非流動資産1兆7,844億円のうち、米国にあるのは5,911億円で、日本の5,205億円を上回る。米国の航空機リース会社や自動車販売金融会社、穀物会社などへの出資が、こうした米国の比重につながっていると考えられる。

3.2 海外拠点の分布

有報の「関係会社の状況」に記載された主要な海外子会社・関連会社は、15か国に58社あった。国別に見ると、米国が20社で突出して多く、オーストラリアが6社、シンガポールが5社、英国が4社で続く(図4)。

丸紅の主要な海外子会社・関連会社の国別件数
図4 主要な海外子会社・関連会社の国別件数(2026年3月期)

主要な関係会社の3社に1社以上が米国にある。主要な関係会社には、米国で航空機リース事業を営むAircastleの持株会社、米国の自動車販売金融会社Westlakeなどへの投資会社、米国の農業資材会社Helena Agri-Enterprisesなどが挙げられている。関係会社の一覧には主要な会社しか記載されないため、実際に社員が勤務する国はこれより多いと考えられる。

3.3 海外比率の解釈

地域別の収益は、売上を計上した会社の所在地で分けた数値であり、社員が実際に働いている場所の分布を直接表すものではない。ただし丸紅の場合、収益と非流動資産の両方で米国の比重が大きく、主要な関係会社も米国に集中している。米国に駐在する場合は、こうした大規模な事業会社の経営や管理に関わる形が多いと解釈できる。

4 人材育成と海外勤務の制度

有報には「人的資本」と呼ばれる、人材への投資や育成方針を記載する欄がある。丸紅はこの欄で、中期経営戦略「GC2027」に沿ったグループ人財戦略を掲げ、「多彩な人財が集い、活き、繋がる場」をつくることを方針としている。本節では、海外勤務に関わる内容を4つの観点から整理する。

丸紅の海外勤務に関わる4つの数字

4.1 海外駐在の規模

丸紅グループは全世界に約53,000名の連結従業員を擁し、2026年4月1日時点で本体の社員730名が海外に駐在している。本体の従業員4,225人に対して約17%であり、およそ6人に1人が海外で働いている計算になる。

全社員のうち何人が海外に駐在しているかを示した数値は、海外で働く機会の規模を最も直接的に表すものである。他社では、伊藤忠商事が入社8年目までの海外派遣比率を、三井物産が海外派遣研修者の数を開示しており、何を開示するかは会社によって異なる。

4.2 若手の事業現場への配置

同社は、社員の成長をもたらすのは「現場・事業会社の経験」であると考え、若手のうちから事業の現場に入り込むことを重視している。その結果、2026年4月時点で事業会社などへ出向している入社10年以内の社員の数は、前年に比べて24%増えた。また、本体の従業員4,225人のうち1,349人が他社に出向している。

同社はさらに、2025年4月から各営業部門に投資経験の豊富な人材を集めた「成長投資マネジメント室」を置き、2026年4月には事業会社の支援機能を集約した「バリュークリエーションオフィス」を社長直下に設けた。事業会社の現場で経験を積んだ後に、全体を見渡して事業の価値を高める仕事に移るという「キャリアサイクル」を通じて、経営人材を育てる方針である。若手社員にとっては、国内外の事業会社への出向が早い段階から現実的な選択肢になっていると考えられる。

4.3 国をまたぐ人材の活用

同社は、海外現地法人や海外の事業会社で採用された優秀な人材を東京本社などで活用し、将来のグループ各社の幹部候補を育てるため、社員を勤務地以外の国へ一定期間派遣する「Marubeni Global Mobility Program」を実施している。また、海外現地法人や国内外の事業会社の上位マネジャー層が集まる「丸紅グループ・ワークショップ」を開いている。

人財戦略を議論する「タレントマネジメントコミッティ」には、2026年4月以降、テーマに応じて海外現地法人の人事の統括者が参加する予定である。日本の本社が海外に人を送るだけでなく、海外で採用された人材も含めてグループ全体で人を動かす仕組みが整えられつつあると解釈できる。

4.4 ミッションにもとづく人事制度と社内の流動性

同社の人事制度は「ミッションレーティング」と呼ばれ、各組織が個人の実力や意欲に応じてミッション(期待される役割と目標)を与え、その大きさで処遇上の資格と報酬が決まる。ミッションは毎年見直される。2024年7月には総合職と一般職の区分を廃止し、この仕組みを非管理職を含む全社員に適用した。

社内で人が動く仕組みも多い。部署が人材を公募する「社内人財公募」、社員が異動を希望して登録する「ジョブマッチングシステム」、他業界の企業と社員を派遣し合う「社外人財交流プログラム」があり、担当業務以外の活動に就業時間の15%を使える「15%ルール」も設けている。

5 働き方と処遇

5.1 給与・年齢・勤続年数

2026年3月期の丸紅本体の平均年間給与は1,784万円(前年度比4.4%増)、平均年齢は42.5歳、平均勤続年数は17.8年であった。図5は、卸売業の各社と平均年齢・平均年間給与を比較したものである。

卸売業各社の平均年齢と平均年間給与(丸紅)
図5 卸売業各社の平均年齢と平均年間給与(2026年3月期)

平均年間給与は、比較した卸売業22社の中で5位であった。三菱商事の2,113万円、三井物産の2,059万円、伊藤忠商事の1,991万円、住友商事の1,840万円に次ぎ、卸売業の中央値1,105.5万円の約1.6倍にあたる。ただし、有報の平均年間給与は職種を問わない全社員の平均であり、職種や年次による差は反映されていない。また、社員の従業員持株会への加入率は97.0%であり、業績に連動した奨励金も支給されている。

5.2 労働時間と定着

働き方に関する指標を見ると、2026年3月期の年次有給休暇の取得率は71.4%、自己都合による離職率は1.3%であった。男性の育児休業等の取得率は91.9%である。残業時間の数値は有報に記載されていない。社員のエンゲージメントの調査では、全社のスコア(調査会社の利用企業の平均を50とした偏差値)が63.1となり、2019年3月期に測定を始めて以来、毎年上昇している。

一方、女性管理職比率は10.4%であり、同社は2031年3月期までに15%以上とすることを目標にしている。男女の賃金の差異は、男性の賃金を100としたときの女性の賃金が61.5であった。同社は、処遇上の資格が同じ男女の賃金の差異はどの資格でも90%を超えるとしており、差の主な要因は女性の管理職が少ないことと、かつての一般職の女性比率が高かったことにあると説明している。

5.3 組織の構造:本社1人あたりのグループ社員数

丸紅の連結従業員数は52,658人、単体の従業員数は4,225人である。連結を単体で割った値は12.5となり、本社の社員1人に対してグループ全体で約12人の社員がいる計算になる。本稿ではこの値を「本社レバレッジ」と呼ぶ。

同じ計算を他の5大商社に当てはめると、伊藤忠商事は27.8、住友商事は16.7、三菱商事は14.1、三井物産は10.4であった。丸紅は5社の中で4番目である。グループの規模に比べて本社の社員が比較的多い構造であり、本社の社員が海外駐在や出向によってグループ会社に入り込む形で事業を動かしていると解釈できる。

6 経営陣と株主

6.1 経営陣の経歴

2026年6月12日時点で、丸紅の社内出身の取締役は4人であった。このうち2人の略歴に海外拠点の役職が現れる。

たとえば、2019年に社長に就任し、現在は会長を務める役員は、2014年に北中米支配人と丸紅米国会社の社長・CEOを兼務し、その後、電力・プラントグループのCEOを経て社長に就任している。また、副社長を務める役員は、2020年から東アジア総代表を務めた。2025年に社長に就任した役員は、入社後にいったん外資系のコンサルティング会社に移り、再入社した経歴を持つ。

執行役員に目を向けると、2026年6月12日時点の執行役員40人のうち6人が、欧州、米州、アセアン、大洋州、中国、南西アジアの各地域を統括する総代表を務め、各地域の現地法人の社長を兼ねていた。経営幹部の15%が海外の地域の責任者を務めていることになる。

6.2 株主構成

丸紅の株式のうち、外国法人等が保有する割合(外国人持株比率)は43.6%であり、5大商社の中で最も高い。図6は、上位10位までの大株主を種類別に合計したものである。

丸紅の大株主の種類別の保有割合
図6 上位10位の大株主の種類別の保有割合(2026年3月期)

上位には、投資信託や年金の資産を管理する国内の信託銀行の口座が並び、合計で20.9%を占める。次いで、ステート・ストリート・バンク・アンド・トラスト・カンパニー(9.83%)など海外の機関投資家の口座が合計15.8%を占める。また、IRBANKが整理した大量保有報告書の情報によれば、米国のバークシャー・ハサウェイ傘下のNational Indemnity Companyの保有割合は、前回の9.30%から10.32%に増えたと報告されている(2026年6月25日提出)。大量保有報告書は、株式の5%超を保有した投資家が提出する書類である。同社は2026年5月、National Indemnity Companyが主要株主および筆頭株主になったことを確認している。

株主の4割以上が海外の投資家であることは、同社の経営が英語による説明や国際的な基準での評価に常にさらされていることを意味する。社員の持株会加入率が97.0%であることと合わせ、株主の目線で企業価値を高めることが社内でも強く意識されていると考えられる。

7 総合評価

7.1 5つの指標による位置づけ

本シリーズでは、海外で働く機会に関わる5つの指標を用いて、約500社の中での各社の位置を示している(指標の定義は付録を参照)。図7は、丸紅の各指標のパーセンタイルである。

丸紅の海外キャリアに関わる5つの指標
図7 海外キャリアに関わる5つの指標(約500社の中でのパーセンタイル)

丸紅は、海外子会社がある国の数が89、現地化に関する記述が81、海外勤務・研修に関する記述が78、本社レバレッジが69、海外売上比率が56であった。5つの指標を重みづけして合計した総合指数では、上位30%にあたるTier Aに分類された。なお、当サイトの集計で役員の人数に取りこぼしがあったため、6.1節の原文の人数で数え直している(他社の順位は再計算していない)。

この指標には、4.1節で見た「海外駐在者730名」という数値は含まれていない。駐在者の数を開示している会社が少なく、500社を同じ基準で比べられないためである。駐在者の規模まで含めて評価すれば、丸紅の海外で働く機会は指標が示すよりも大きいと考えられる。

7.2 4類型による位置づけ

本シリーズでは、海外売上比率の大小と、有報に記載された海外勤務・現地化の記述の傾向から、会社を4つの類型に分けている(図8)。

海外キャリアの4類型と丸紅の位置
図8 海外キャリアの4類型と丸紅の位置

丸紅は、海外売上比率が50%をわずかに下回り、海外勤務・研修に関する記述が多いことから、このシリーズの分け方では「育成投資型」に分類される。ただし海外売上比率は49.2%で、50%を境とする分類の境界に位置する。前年度は50.1%であったことを踏まえると、同社は海外の事業の比重が大きく、若手を事業現場に送り出して育てる会社であると考えられる。

8 就職活動への示唆

8.1 面接・OB訪問で確かめるべき点

以上の分析から、有報だけでは分からず、社員に直接確かめる価値がある点が3つ導かれる。

  1. 本体の社員の約6人に1人が海外に駐在しているが、初めて駐在するのは入社何年目ごろが多いか。また、米国とそれ以外の地域ではどちらが多いか(4.1節、3.1節)
  2. 入社10年以内の社員の事業会社への出向が増えているが、出向先は国内と海外のどちらが多いか。また、出向から本社に戻った後はどのような仕事を担うか(4.2節)
  3. ミッションレーティングのもとで、若手が海外の案件や事業会社の経営に関わる大きなミッションを任されるのは、どのような場合か(4.4節)

質問の際には、根拠となる情報を添えるとよい。たとえば「有価証券報告書で、事業会社に出向している入社10年以内の社員が前年比で24%増えたと拝見しました」と前置きすれば、企業研究をしたうえでの質問であることが伝わる。また、回答が「部署による」であった場合は、相手自身の経験を尋ねることで、具体的な情報を得やすくなる。

OB・OG訪問の相手を見つける方法は、交換留学前にOB・OG訪問をする理由|ビズリーチ・キャンパスの使い方と注意点で詳しく解説している。

8.2 交換留学の経験との接点

丸紅は、社員の成長をもたらすのは事業の現場での経験であるとし、若手のうちから現場に入り込み、結果にこだわりながら学ぶことを求めている。交換留学は、慣れない環境に自ら飛び込み、限られた期間で成果を出す経験であり、この考え方と重なる部分が大きい。

ただし、留学したという事実そのものは差がつきにくい。評価されやすいのは、現地の人々の中に入り込み、具体的な結果を出した経験であると考えられる。たとえば、留学先の学生団体に参加し、日本文化を紹介するイベントの集客を担当して、現地の学生へのアンケートをもとに告知の方法を変え、参加者を前年より増やした経験は、現場で結果にこだわる姿勢として説明できる。また、同社は米国の比重が特に大きいため、米国に留学した学生は、現地で見た産業や生活の変化を同社の事業と結びつけて話すこともできる。

9 本稿の限界

本稿の分析には、次の5つの限界がある。

  1. 平均値の限界:有報の平均年間給与や平均年齢は全社員の平均であり、職種や年次別の分布は分からない。
  2. 地域別の数値の限界:丸紅は地域別の収益を日本・米国・その他の3区分でしか開示しておらず、米国以外の国の内訳は分からない。また、地域別の収益は社員が働く場所の分布を直接表すものではない。
  3. 拠点数の限界:関係会社の一覧には主要な会社のみが記載されるため、実際の拠点数や勤務地はこれより多い。
  4. 駐在者数の限界:海外駐在者730名は2026年4月1日時点の人数であり、駐在先の国や駐在期間の内訳は分からない。
  5. 時点の限界:本稿の数値は2026年3月期の有報に基づく。制度や指標は年度ごとに変わりうるため、最新の有報で確認する必要がある。

まとめ

まとめると、丸紅は次のような特徴を持つ会社である。

  • 本体の社員730名が海外に駐在しており、本体の従業員の約6人に1人が海外で働いている
  • 若手を事業会社などの事業現場に配置することを人材戦略の柱とし、入社10年以内の社員の出向が1年で24%増えた
  • 収益の約3割を米国で上げ、非流動資産も米国が最も多く、海外の中でも米国の比重が際立って大きい

最初の一歩として、EDINETで丸紅の有価証券報告書を開き、「従業員の状況等」の冒頭にある「人材戦略に関する基本方針等」と、「サステナビリティに関する考え方及び取組」の人財に関する項を読んでほしい。本稿の第4節で整理した制度と数値の多くが、そこにまとめて記載されている。


付録 指標の定義:海外売上比率は、地域別の収益のうち日本以外の割合。海外子会社がある国の数は、「関係会社の状況」に記載された主要な海外子会社・関連会社の所在国の数。本社レバレッジは、連結従業員数を単体従業員数で割った値。海外勤務・研修に関する記述は、有報本文における海外勤務・派遣・研修に関する記述の件数に、社内出身の役員のうち海外勤務経験のある人数を加えたもの。現地化に関する記述は、外国人管理職や現地人材の登用に関する記述の件数。いずれも時価総額3,000億円以上の上場企業約500社の中でのパーセンタイルで示した。総合指数は5指標を30%・25%・10%・25%・10%の重みで合計し、上位10%をTier S、30%までをTier A、60%までをTier B、それ以外をTier Cとした。4類型は、海外売上比率50%を境に、海外勤務に関する記述と現地化に関する記述のどちらが多いかで分けた。

データの出典:丸紅 有価証券報告書(第102期、2025年4月1日〜2026年3月31日)。10年分の業績と大量保有報告書の情報は IRBANK による(出典:金融庁EDINET、加工:IRBANK)。同業他社との比較と5つの指標は、各社の有価証券報告書をもとに当サイトが集計した。

最終確認日:2026年10月26日